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東京高等裁判所 昭和32年(行ウ)1号 決定 1957年3月29日

申立人 株式会社北国新聞社

主文

本件申立はこれを棄却する。

理由

本件申立の理由は別紙申立理由書のとおりである。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第六十八条第一項は、同法第六十七条により裁判所が発したいわゆる緊急停止命令については、裁判所の定める保証金又は有価証券を供託してその執行を免れることができる旨規定しているが、かかる供託をすることにより常に必ずこの執行免除を受け得るものと解すべきでなく、事案の性質が執行の免除に適するかどうか、執行を免除することが緊急停止命令によつて保全しようとする法益を危うくすることがないかどうかその他諸般の事情を検討してこれを決すべきものと解するのを相当とする(当庁昭和三十年(行ウ)第一三号緊急停止命令申立事件昭和三十年十一月五日決定参照)。本件においては、申立人は現にその発行販売する富山新聞の朝夕刊セツト版を富山県下においては、石川県における北国新聞のそれより一カ月につき五十円低い月極め定価二百八十円で販売しているのであつて、これを放置とするときは、富山県下の競争各紙は不当な圧迫をこうむり、この販路顧客を奪われ、勢いのおもむくところ競争各紙はこれに対する相応の対抗策を講ぜざるを得ざるにいたり、かくては新聞業界における正常な競争秩序は破壊されるおそれがあるものというべきことは、当裁判所が本件緊急停止命令において示したとおりであり、当裁判所は本件事案につき公正取引委員会の審決があるまで一時右行為を停止せしむべき緊急の必要があるものとして右命令を発したのである。この故に今本件申立人に右執行の免除を得しめるならば、事態はまた右命令以前の状態に戻り、本件緊急停止命令によつて保全しようとした法益は再び侵害せられることとなり、そもそも右緊急停止命令を発したゆえんは全く無に帰するものといわなければならない。このことはたんに申立人に裁判所の定める保証金等を供託せしめ、違反の審決ある場合これが没収の危険を負担せしめることによつては解消するものではない。よつて本件においては右緊急停止命令の執行を免除すべき理由はないものと認め、申立人の本件申立は失当として棄却すべきものである。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 安倍恕 藤江忠二郎 浜田潔夫 村松俊夫 浅沼武)

申立の理由

本日右当事者間の昭和三十一年(行ウ)第十三号緊急停止命令申立事件について御庁の決定を受けましたが被申立人は公正取引委員会の審判に際しては富山新聞の差別対価について問擬される理由の存しない事を明かにし得ると確信しておりますが故に御庁の御指定通りの保証金又は有価証券を供託いたしますから本停止命令の執行を免除下さるよう独禁法第六十八条に基き申請いたします

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